月とスッポン      ありのままは難しい

「では行きましょう」とすでに準備万端の大河に声をかけられた。

「どうして大浴場に入る気になったんですか?」

エレベーターが来るのを待っていると大河が首を傾げながら私に問う。

「まぁ、色々あってね」
「色々とは?」

なんとなく恥ずかしい話なので誤魔化そうと思ったが、大河に話して幻滅されるならそれはそれでいい気がしてきた。
それでイヤになれば、願ったり叶ったりかもしれない。

「デパコスを買いに行ったらお姉様に会ったのね。その時フルメイクをして貰ったんだけど」
「デパコス?」

「デパートコスメ。デパートで売っているお高めの化粧品」
「なるほど。それで」

「家に着いたら達ちゃんに捕まって、そのまま仕事に入ったわけ。で、いくらナチュラルメイクっていってもフルで化粧して仕事に入った事がないから何か言われるかなぁ?バカにされるかな?冷やかされるかな?なんて思いながら仕事したんだけど。
まぁ、忙しくてそれどころじゃなかったってのもあるけど、誰も何も言わないわけよ。
仕事終わって「休みでどこ行ってた?」って聞かれたから「デパコス買いに行って、フルメイクしてもらってきた」って自分から言ったら「へー」って言われたの」

「達哉さんに聞いたのがいけなかったのではないですか?」
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