月とスッポン ありのままは難しい
「それから少しでも体調が悪いとすぐに連絡をください」
女風呂だぞ?連絡してどうする?
というかお前も風呂に入るならスマホは持ち込まないだろ。
眉間に皺を寄せる。
「子供ではないので大丈夫です。お互いゆっくりとお風呂を楽しみましょう。では、ラウンジでお会いしましょう」
背中に視線を感じながら暖簾を潜る。私は戦地へでも向かうのか?
ドキドキしながら扉を開ける。
平日だからなのか、まだ明るいからなのか誰もいない。
私の緊張が少し緩む。
服を脱ぎいざ。浴場へと足を踏み入れれば、誰もいない。
掛け湯をして半身浴からの全身浴。それから体を洗ってもう一度浸かる。
呪文のように繰り返し言っては見るが、掛け湯だけで浴槽に浸かるのには抵抗がある。
汗をかいたんだ。体は何度も洗ってもいいんだ。自分に言い聞かせながら体を洗い浴槽に浸かる。
なんだこれは!
大浴場とはただの大きいお風呂だと思っていた。足が伸ばせるだけだと思っていた。
「はー、幸せだぁ」
思わず声が漏れる。
今まで温泉を部屋の湯船で堪能していた気になっていた自分をぶん殴ってやりたい。
このまま寝たら気持ちいいに違いない。
『もう少し浸かっていたいと思ったら出る』
大河の声が聞こえる。
おかんかと自分の幻聴にツッコミを入れ、せっかくなのだからと外風呂に浸かりながらの夜空を堪能する。
「これは格別。極楽、極楽」
『もう少し浸かっていたいと思ったら出る。そう言いましたよね。ちゃんと水分も取ってください』
また大河の声が聞こえる。
しかも、怒られた。
これは重病かもしれない。