あの夏、君と最初で最後の恋をした

⑯

お風呂から上がり、リビングにいくと颯太が本を読んでいた。
真剣な表情で文字を追い、ページを捲っていく。

本が好きな颯太は昔からたくさんの本を読んでいた。
ジャンルも幅広く、ミステリー物から恋愛物まで何でも読んでいたと思う。

「何読んでるの?」

私の声に少し驚いたように本から顔を上げる。

「ああ、お風呂出たんだね」

パタンと本を閉じ、私に向き合ってくれる颯太。

「はい、座って」

そう言って私を椅子に座らせてドライヤーを持ってきて乾かしてくれる。

「颯太に髪乾かしてもらうの、好き」

「放っといたらいつまでもそのままだからね、友花は」

優しく髪を梳きながら乾かしくれる颯太の手は昔から気持ち良くて眠くなるほどだ。

こうして颯太に乾かしてほしくて、私はわざと乾かさずにいる。


「はい、乾いたよ」

「ありがと、颯太もお風呂入ってきなよ。
さっぱりするよ」

「大丈夫だよ、今は暑さとかも感じないし汗もかかないんだ。
お風呂も入らなくてもいいみたいで……」

「ダメ、入ってきて。
今度は私が颯太の髪乾かすから」

「……じゃあ、そうしようかな」

少し困ったように笑う颯太に胸が痛んだ。

ねぇ颯太。
私と颯太の間に線を引かないで。

颯太は何も変わらないよ。
私と一緒だよ。

これからだって何も変わらないの。

颯太がお風呂にいってる間にパパとママへの連絡を済ませ、颯太が読んでいた本をパラパラと捲る。

昔、ママが読んでいた本だと思う。
颯太は毎年、ここに来るとママが置いてた本を熱心に読んでいたから。

今では売っていない本だから、貴重だよ、
なんて言って難しそうな本も読んでいた。

今回は恋愛小説だ。
悲恋物っぽい。

珍しいな、颯太が悲恋物を読むなんて。

小説でも何でも、ハッピーエンドが好きだって言ってたのに。

……本を読む事も、颯太のやりたい事なのかな?

全部やりに来たって事は、
やりたい事はたくさんあるって事だよね?

他に何があるんだろう?

私に何が出来るのだろう。

……たくさん、やりたい事があるといい。
たくさんたくさん、あればいい。
何年も、何十年もかかればいい。

そしたらその間、
ずっとずっと颯太は私と一緒にいてくれる。

ずっとずっと、颯太と過ごせる。


……このまま、時が止まればいいのに。





ねぇ、颯太。
この時の私は本気でそう思っていたの。

このまま時が止まって、
私はこのままここで、颯太と過ごせたらそれでいい、
そう、本気で思っていたの。

だけど、ねぇ颯太。

颯太は違ったよね。

颯太はただ

私が未来を生きていけるために何が出来るのか、
それだけを考えてくれてたんだね。

いつだって私は颯太の優しさに守られていた。

それは今もこれからも、ずっとずっと。



< 17 / 48 >

この作品をシェア

pagetop