あの夏、君と最初で最後の恋をした

田舎の夜は都会と全く違う。
夜も更けたら辺りは真っ暗だ。
喧騒もなく、耳に響くのは相変わらず虫の鳴き声だけ。

エアコンの効いた涼しく快適な部屋で何度も寝返りを打つ。

私はママが昔使ってた部屋で、
颯太は客間で寝る事になった。

……颯太はもう寝たのかな。

快適な部屋なのに、疲れてるはずなのに、
何故か寝付けずスマホを手に取る。

時間は夜中1時を少し過ぎていた。

一度明るい光を目に入れてしまうと、ますます目が冴えてしまう。

「はぁ……」

ひとつ小さくため息を吐きベッドから起き上がる。

スマホの明かりを頼りにリビングにいきコップに水を入れる。

静かだな。
虫の鳴き声以外は本当に何も聞こえない。

スマホを伏せると途端に暗闇にひとり取り残される。


……この1年、本当に色々あった。
颯太がいなくなって、
ひとりになって。

そして、
颯太が戻ってきて、
私はひとりじゃなくなった。

なのに、
何でだろう。

真っ暗なこの闇にいると、
私はやっぱりひとりなんじゃないかと思ってしまう。

私は本当に颯太と一緒にいるの?
本当は私はひとりでここに来たんじゃないの?

あの日、
颯太は本当に私のところに戻ってきたの?

本当に?

全部全部、
私の思い込みじゃない?


颯太は本当に、

今、ここにいるの?

「……やだ」

ぽつりとこぼれた言葉は暗闇に掻き消される。

不安が押し寄せる。
胸がギュッと痛い。

颯太、颯太、颯太……


「友花?」

不安で押し潰される私の耳に、
颯太の声が優しく届く。

振り向くと、颯太が少し驚いた顔で私を見ていた。


「颯太……」

「びっくりした、まだ起きてたの?」


「颯太……!」

思わず颯太の胸に飛び込む。

「どうしたの、怖い夢でも見た?」

優しく頭を撫でながらそう聞いてくる颯太に、
私は何も言えずにただ颯太の体温を確かめる。

怖い夢なら良かった。
颯太がいなくなるなんて、
そんなの、
怖い夢なら、
覚める夢なら良かったのに。

だけど、今私は暖かい颯太に包まれている。

その安心感から少し落ち着きを取り戻し、
改めて颯太を見る。

颯太は優しく微笑んで私を見ている。

もうずっとずっと見てきた、
大好きな颯太の優しい顔。

「……颯太」

「ん?何?」

「そばにいてね」

「……どうしたの?
やっぱり怖い夢でも見た?」

「ううん、
ただ、颯太にずっとそばにいてほしいって思っただけ。
もうひとりは嫌なの」

「友花はひとりじゃないよ。
いつだって友花を支えて、心配して、
友花を大切に想ってくれてる人達がたくさんいるんだよ?」

「私は颯太にいてほしいの」

「……大丈夫だよ、
友花にはちゃんとずっとそばにいてくれる人がいるから」

「私は颯太に……!」

「それより友花、こっちきて」

私の言葉を遮り、私の手を引き歩き出した颯太に、
何も言えずにただついていくしか出来なかった。



「ほら、見て」

そう言って颯太が庭に面した窓のカーテンを開ける。
途端に目の前に広がるたくさんの小さくて明るい光。

「蛍……?」

「そう、毎年見てたよね」

静かに窓を開けて私の手を取り庭へと出る。

「わぁ……!」

暗闇を蛍が明るく照らす。

幻想的で綺麗で、
何も言えずにただ圧倒される。

「毎年見てたけど、今年は特に綺麗だね」

そう言った颯太の横顔が、
凄く綺麗で、
凄く儚くて、

私は泣きそうになる。

「友花の顔がよく見える」  

「颯太の顔も、よく見えるよ」

2人で顔を見合わせて笑う。

いつまでもこんな日が続きますように。

そう、強く願いながら颯太の手を握った。





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