あの夏、君と最初で最後の恋をした

⑰

田舎の夜は都会と全く違う。
夜も更けたら辺りは真っ暗だ。
喧騒もなく、耳に響くのは相変わらず虫の鳴き声だけ。

エアコンの効いた涼しく快適な部屋で何度も寝返りを打つ。

私はママが昔使ってた部屋で、
颯太は客間で寝る事になった。

……颯太はもう寝たのかな。

快適な部屋なのに、疲れてるはずなのに、
何故か寝付けずスマホを手に取る。

時間は夜中1時を少し過ぎていた。

一度明るい光を目に入れてしまうと、ますます目が冴えてしまう。

「はぁ……」

ひとつ小さくため息を吐きベッドから起き上がる。

スマホの明かりを頼りにリビングにいきコップに水を入れる。

静かだな。
虫の鳴き声以外は本当に何も聞こえない。

スマホを伏せると途端に暗闇にひとり取り残される。


……この1年、本当に色々あった。
颯太がいなくなって、
ひとりになって。

そして、
颯太が戻ってきて、
私はひとりじゃなくなった。

なのに、
何でだろう。

真っ暗なこの闇にいると、
私はやっぱりひとりなんじゃないかと思ってしまう。

私は本当に颯太と一緒にいるの?
本当は私はひとりでここに来たんじゃないの?

あの日、
颯太は本当に私のところに戻ってきたの?

本当に?

全部全部、
私の思い込みじゃない?


颯太は本当に、

今、ここにいるの?

「……やだ」

ぽつりとこぼれた言葉は暗闇に掻き消される。

不安が押し寄せる。
胸がギュッと痛い。

颯太、颯太、颯太……


「友花?」

不安で押し潰される私の耳に、
颯太の声が優しく届く。

振り向くと、颯太が少し驚いた顔で私を見ていた。


「颯太……」

「びっくりした、まだ起きてたの?」


「颯太……!」

思わず颯太の胸に飛び込む。

「どうしたの、怖い夢でも見た?」

優しく頭を撫でながらそう聞いてくる颯太に、
私は何も言えずにただ颯太の体温を確かめる。

怖い夢なら良かった。
颯太がいなくなるなんて、
そんなの、
怖い夢なら、
覚める夢なら良かったのに。

だけど、今私は暖かい颯太に包まれている。

その安心感から少し落ち着きを取り戻し、
改めて颯太を見る。

颯太は優しく微笑んで私を見ている。

もうずっとずっと見てきた、
大好きな颯太の優しい顔。

「……颯太」

「ん?何?」

「そばにいてね」

「……どうしたの?
やっぱり怖い夢でも見た?」

「ううん、
ただ、颯太にずっとそばにいてほしいって思っただけ。
もうひとりは嫌なの」

「友花はひとりじゃないよ。
いつだって友花を支えて、心配して、
友花を大切に想ってくれてる人達がたくさんいるんだよ?」

「私は颯太にいてほしいの」

「……大丈夫だよ、
友花にはちゃんとずっとそばにいてくれる人がいるから」

「私は颯太に……!」

「それより友花、こっちきて」

私の言葉を遮り、私の手を引き歩き出した颯太に、
何も言えずにただついていくしか出来なかった。



「ほら、見て」

そう言って颯太が庭に面した窓のカーテンを開ける。
途端に目の前に広がるたくさんの小さくて明るい光。

「蛍……?」

「そう、毎年見てたよね」

静かに窓を開けて私の手を取り庭へと出る。

「わぁ……!」

暗闇を蛍が明るく照らす。

幻想的で綺麗で、
何も言えずにただ圧倒される。

「毎年見てたけど、今年は特に綺麗だね」

そう言った颯太の横顔が、
凄く綺麗で、
凄く儚くて、

私は泣きそうになる。

「友花の顔がよく見える」  

「颯太の顔も、よく見えるよ」

2人で顔を見合わせて笑う。

いつまでもこんな日が続きますように。

そう、強く願いながら颯太の手を握った。





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