あの夏、君と最初で最後の恋をした

夏の日射しは都会も田舎も変わらず暑い。
外はうだるような暑さの中、エアコンの効いたリビングでテーブルに教科書とノートを広げシャーペンを片手に頭を抱える。

「分かんないー……」

数字や記号が並ぶ教科書を遠ざけ、頭からテーブルに突っ伏す。

「大丈夫、少し整理して考えようか」

私とは正反対に数学が得意な颯太はそう言って私の教科書を手に取る。

私の隣に座る颯太をチラリと見ると、真剣な顔で教科書を見ていた。
その表情はいつもの優しい穏やかな笑顔と違って男の子って感じだ。

「ほら、友花。
一緒に解いていこう」

そう言って教科書から私に視線を移した颯太。
目が合った瞬間、ドキッとした。

「う、うん!」

……いつからだろう、
昔から当たり前のように見てきた颯太の、ふとした表情に何だか知らない颯太を見ているようで、ドキドキして、
そして何だか切なくなったのは。


「ほら、こうすると簡単に解けるよ」

「本当だ!
やっぱり颯太は凄いよね」

「違うよ、解いたのは友花。
僕は途中を少し教えただけ。
これは友花の実力だよ」

「え〜、そんなんじゃないよ〜」

「ううん、友花が頑張って解いたんだよ」

穏やかな口調で、だけど真剣にそう言ってくれてるのが分かる。

「あ、ありがと……」

何だか照れくさくて颯太から顔を反らしてしまう。

「友花は昔からやれば出来るんだよ」

優しくそう言ってくれる颯太に、
何故かは分からないけど、
胸が痛くなった。

「このページが終わったら今日は海にいこうか」

「本当!?」

「うん、だから頑張ろうね」

「やったー!海ー!」

両手を上げて喜ぶ私を、颯太が少し苦笑しながら、
それでもやっぱり優しく大きな暖かい手で頭を撫でてくれる。


「颯太にこうやって頭撫でてもらうの、昔からだよね」

「そうだね、友花は何か出来たりしたら撫でられ待ちしてたからね」

「そうそう!
紬ちゃんに笑われてたなぁ、
友花は颯太に甘え過ぎだって」

「そうだね、
ちょっと甘やかしちゃったね」

「いいの、颯太に甘やかしてもらうのも、頭撫でてもらうのも好きだから」

「うん、でも……」

何か言いたげな颯太の表情は、
少し、
苦しそうだった。

そんな颯太の顔を見たくなくて、
私はまた、
颯太から顔を反らしてしまった。

「さっ、海で思いっきり遊ぶためにもう少し頑張ろうか」

「うん!」

話が反れた事に少しホッとする。

だけど、こっそりと見た颯太の横顔は、

やっぱり少し苦しそうで、
悲しそうだった。






ねぇ、颯太。

颯太はあの時、

私との別れを思って苦しくて、悲しくて、
だからあんな表情をしていたんだよね。

これから先の未来、
甘やかす事も、頭を撫でる事も出来なくて。

だから、
颯太に甘えきってた私を、
何とかしなきゃって頑張ってくれてたんだよね。

最期まで颯太に甘えて、
ごめんね――。







< 20 / 48 >

この作品をシェア

pagetop