あの夏、君と最初で最後の恋をした

海で遊んだ心地良い疲労感と、
颯太とはじめてキスをした幸せに浸りながら、
この日は寝付けないなんて事はなく、朝までぐっすりと眠った。

目が覚めて時計を見ると7時前だった。
朝から鳴り響く蝉の鳴き声。
普段ならうるさいな、なんて煩わしく思うのに今日はそんな蝉の鳴き声さえも楽しく感じるから不思議だ。

颯太はまだ寝てるかな?
颯太だって昨日は疲れただろうし、ぐっすりだよね。

今日は私が朝ご飯全部用意しておこう。
颯太の好きな少し甘い卵焼き、頑張って作ってみよう。
そしたら颯太、喜んでくれるかな?

そんな事を考えながら静かにリビングへ入ると、カーテンがすでに開けられていて眩しい程に太陽の光が差し込んでいた。

……颯太、もう起きてたのか。
なんてちょっとがっかりして窓から庭を見ると颯太がいた。

颯太の姿を見て嬉しくなって私も庭へおりる。

おはよう、
そう声をかけようとした私の口は、
颯太の表情をみてぎゅっと閉じてしまった。

「あ、友花。
おはよう」

すぐに私に気づいた颯太がいつもの穏やかな顔でそう言ってくれた。

「おはよう、颯太」

私も笑顔を作ってそう返した。

「今日もいい天気だね」

「うん、朝から暑いねー」

「そうだね、
さ、着替えて朝ご飯を作ろう」

「あ、今日は私が颯太の好きな少し甘い卵焼き作るよ!」

「本当?
嬉しいな」

2人で笑いながら家の中へと戻る。
だけど、私の胸はドクドクと痛いくらいに音を立てていた。

……颯太、見たことない顔してた。

悲しそうで、悔しそうで、苦しそうで。

颯太が戻ってきてから、ふとした瞬間に颯太が悲しそうな苦しそうな表情をしていたのは分かってた。

だけど、さっきみた颯太は今までのと違った。

颯太、どうしてそんな顔をしていたの?

颯太が私と同じ想いでいてくれてるって、
キスをしてくれた事、嬉しくて、
幸せに浮かれていたのは、私だけなの?

「友花?」

考え込んでしまって足が止まった私に、颯太が不思議そうに私の名前を呼ぶ。

その顔は、昔のままの何度も見てきた颯太の表情で。

「何でもないよ、
着替えてくるね!」

笑顔で明るくそう言って部屋へと戻る。

今、颯太といたら言っちゃいけない事を言ってしまいそうで。
何より、颯太のあんな顔を見た事のショックが抜けなくて。

私はただ、部屋でひとり
涙を耐えるしか出来なかった。





ねぇ、颯太。

颯太のあの時のあの表情の意味、
今なら分かるよ。

颯太にあんな顔をさせて、
悲しくて苦して、悔しい想いをさせて、

ごめんね。




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