あの夏、君と最初で最後の恋をした

蝉の鳴き声を一身に受けながら日傘を差しスーパーまでの道をひとりで歩く。

昔はパパやママ、紬ちゃん、お爺ちゃんお婆ちゃんと一緒に、
颯太が一緒に来るようになってからは颯太と歩いたこの道。

「おはよう」

「あ、おはようございます……」

「朝から暑いねぇ。
百合ちゃんの娘さんだよね?」

見知らぬ人に挨拶されるのはこの辺りでは珍しくない。
質問されるのもよくある事。
特に普段見ない人がいたら気になるのだろう、
昔からよく話しかけられる事はあった。

だけど、いつも私は誰かの後ろに隠れて自分は話さなかった。
挨拶はするけれど、何を話していいのか分からないし、
恥ずかしいのもあって後の対応は全てお任せ状態だった。

でも今は私ひとり。
私がちゃんとしなきゃ。

「はい、そうです」

「大きくなったねぇ、お使いにいくの?」

「はい」

「偉いねぇ、気をつけてね」

そう言って手を振りながらお婆さんは歩いていった。

多分、会った事ある人だろう。
ママの名前も知ってたし、何となく見覚えある。
優しそうなお婆さんだ。

ちゃんと話せたよね?
知らない人に話しかけられる事なんて地元ではない事だから緊張する。

その後スーパーに行く途中も、スーパーの中でも、帰りも声をかけられた。
緊張しながらも何とか話をすると、声をかけてきた人達は嬉しそうにしてくれた。

それが何だかくすぐったくて、
だけど嬉しくて、
ああ、私、こうやって知らない人達ともちゃんと笑って会話出来るんだなって、
少し、自信もついた。

早く帰って颯太に話したい。

帰りは荷物もあったのに、足取りは軽かった。

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