あの夏、君と最初で最後の恋をした

段々と強くなる雨に打たれながら美也子さんの家からスーパーまでの道を探すけれど、指輪は見つからない。

小さい物だし見落としたのかも知れないと何度か往復して探したのに見つからなくて、
もしかして足元にあった指輪を気づかず誰か蹴飛ばしてしまったのかもしれないと思うと途端に絶望した気持ちに襲われる。


台風が近づいていて雨もかなり強くなってくる中、なりふり構ってなんかいられなくて、這いつくばるように膝をつき道の横の草むらにも目を向け手で探るように触れながら探す。

「友花!」

そんな私の後ろから颯太の私の名前を呼ぶ声が響き、振り向くと颯太が驚いているような、心配しているような顔で私を見ていた。

「何してるの!?
こんなに濡れて汚れて……。
早く帰ろう、風邪引くよ」

傘を差し出しながら私の手を引こうとした颯太に、私は首を振る。

「駄目なの、見つけなきゃ……。
美也子さんの大事な物なの……!」

「美也子さん?
友花、何があったの?」

私がこれ以上濡れない様に傘を私の上に差して同じ目線になるようにしゃがんでくれる颯太に泣きそうになる。

だけど、泣いてる暇なんてない。

「昨日、色んな話をした人なの」

心配そうに私を見る颯太に、美也子さんの事を話した。
昨日の事も、美也子さんが大事な結婚指輪を失くしてしまった事も。

「大丈夫だって美也子さん言ってたけど、全然大丈夫じゃないはずだよ。
だって美也子さん、無理して笑ってた。
だから私、美也子さんの大事な指輪見つけなきゃいけないの」

私の話を黙って聞いていた颯太は、私が話し終わるとタオルで私の顔や頭を拭いてくれた。

「分かった。
じゃあ僕も一緒に探すよ」

そう言って私に傘を渡してタオルを私の肩にかけて颯太は私と同じように膝を付き辺りを手で触れながら探し始めた。

「颯太までそんな……、いいよ大丈夫!
私が勝手に探してるだけなんだから!」

雨に濡れる颯太に、草や土で汚れていく颯太に申し訳なくてそう言ったけれど、
颯太は優しく笑って言ってくれた。

「友花の気持ちも、美也子さんの気持ちも、美也子さんの旦那さんの気持ちも分かるから」

「……ありがとう、颯太」

鼻の奥がツンと痛くなる。

そうだ、颯太はいつだってこうなんだ。
まわりの人にいつも優しい。
いつもその人の気持ちを分かろうとしてくれる。
誰に対しても優しくて、暖かくて、困ってたらすぐに手を差し出せる人。

そんな颯太が、
私は昔から大好きで、
そんな風になりたいって、思ってた。

更に強くなる雨、雷の音に気持ちが焦る。
暗くなる前に見つけないと……。
じゃないと、見つけにくくなってしまう。

そんな不安が押し寄せてきたその時、
指にコツっと、ほんの小さく微かに何かが触れた。

ドクッと胸が鳴る。
微かに触れたそれに、目を向ける。

キラリと光るそれを、震える指で拾う。

「……あった」

口から出た言葉は、震えていた。

「颯太、颯太!
あった!
指輪、見つかった!」

私の声に颯太がすぐに私に駆け寄ってきてくれる。

「これ!
美也子さんの結婚指輪!」

颯太にも手にある指輪を見せる。

「良かった……。
もう美也子さん、あんな風に無理して笑って、
悲しくひとりで泣く事もないよね?」

「うん、そうだね。
良かった、本当に……」

「うん、良かった……」

そう言った瞬間、
頬に涙が流れたのが分かった。

もう落としたりしないよう、ぎゅっと指輪を握る。

「……良かった、
もう大丈夫だね、友花」

安心して気が緩んだ私は、
颯太が何を言ったのか聞こえていなかった。


< 37 / 48 >

この作品をシェア

pagetop