口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(突き放されて、傷ついていたのが、馬鹿みたい……)

 青年から大人になった彼が彼女を慈しみながら、元許嫁とは思えない過度なスキンシップを繰り返すからだ。

(こんなこと、されたら……。期待してしまう)

 つぐみが清広を、忘れられなかったように。
 清広もまた、つぐみを十年間求めていたのかもしれないと──勘違いしそうになる。

(現実はそんなに、都合のいいものではないのに……)

 自分の都合がいいように物事を解釈した所で、なんの意味もない。
 事実を知った時に、深い絶望が訪れるだけだ。

(もう二度と。あんな悲しい思いだけは、したくないよ……)

 彼から別れを切り出された時のことを思い出したつぐみは、自身の心を惑わせる彼に文句の一つや二つを言えない代わりに──清広と繋いだ指先に、力を込めた。

 これは彼女が唯一できる、彼に対する反抗だった。

「つぐみも俺と同じ気持ちのようで、嬉しいよ」

 だが──。
 どうやら清広は、自分の都合がいいように解釈したようだ。

「もう二度と、繋いだこの手は離さない」

 繋いだ手を持ち上げた彼は、つぐみと視線を合わせたまま──手の甲に、口づけを送る。
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