口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(びっくりした……)

 下から脱着すれば、ヘアメイクが崩れることはないとわかっていたはずなのに──内心パニックに陥っているつぐみは、バンザイをした状態でドレスを脱ぎ着する。

(どうして清広さんが、こんな所に……?)

 考えるべきことは山ほどあったが──披露宴の開始時間が迫っている以上、悶々と悩む暇すらない。

 つぐみは脱いだ服を紙袋の中へ乱雑に突っ込むと、急いで個室を出た。

「お、お待たせ、しました……!」

 荒い息を吐き出して叫んだつぐみの姿を目にした清広は、来た時と同じようにすぐさま互いの指先を絡め合うと、嬉しそうに口元を緩めた。

「黒のドレスも、似合っている」

 自身の装いを褒められるなど、思いもしない。

 彼女が頬を赤く染めて、恥ずかしそうに下を向けば。
 ドレスの着脱をした際に乱れた髪を、彼が手櫛で直してくれる。

「これでもっと、綺麗になった」

 清広に頭を撫でられた彼女が、はっとした様子で顔を上げれば──満足そうな彼の瞳と、かち合った。

(どうして私を、そんな目で見るの……?)

 その瞳の奥に隠された感情を読み取ったつぐみの心は、荒れ狂っていた。
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