口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(つぐみを愛するこの気持ちは、彼女にも知ってほしい。だが、その奥に隠された異常な愛情は、知られてはいけない……)

 隠し事が苦手な清広は、はたして自分にそんな器用なことができるのだろうかと疑問に思う。
 だが、それをやらなければ訪れるのは、悪夢としか言いようのない現実だ。

(つぐみの夫を名乗っていい男は、俺だけだ)

 暗い海の底で妻に対する愛を再確認した清広は、今すぐ彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。

(妻に会いたい……)

 彼がそう願ったところで、すぐには会えないのが海上自衛官だ。

 つぐみと再会するまでの清広は、一心不乱に仕事に取り組んで来たが──彼女と夫婦になってからは、雑念が多くなったように感じる。

『妻帯者になったら、人生が変わるぞ』

 その言葉を目黒海将から告げられた当初は、そんなわけないだろうと馬鹿にしていたが──つぐみと結婚した今なら、よく理解できる。

(あの人の言葉は、正しかった)

 愛の力とは本当に恐ろしいものだ。
 清広は人知れずそれを再確認すると、口元を緩めた。
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