口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(責任は取った。あとはこれから、どうやって彼女を繋ぎ止めるかを考えるだけだな……)

 誰にも邪魔されずに、幼いつぐみと自分の姿が映るホームビデオを視聴する時間だ。
 清広は与えられた休憩時間に、どれほど愛を注ぎ込めばつぐみと離婚しなくて済むかを考え続けた。
 彼にとって、愛する妻を想うことは──何よりも代えがたい、ストレス解消の方法であったからだ。

(俺の名を呼ぶ、優しい声が好きだ)

 つぐみは幼い頃から清広のことを、名前にさんを付けて呼ぶ。
 何度も呼び捨てで構わないと彼女には告げたが、年上だからと譲らなかったのだ。

(可憐で愛らしい姿は、誰にも見せたくない。叶うことなら、一生俺の腕の中に閉じ込めてやりたいくらいだ)

 彼はつい最近目にしたばかりのウエディングドレスに身を包んだつぐみの愛らしい姿を思い浮かべ、幸せな気持ちでいっぱいになった。

(俺がつぐみに対して異常なまでの独占欲を抱いていると知ったら、怖がるだろうな……)

 清広に怯え、小動物のように全身を震わせるつぐみの姿すらも愛おしいと感じる彼は、病的なまでに彼女を愛していた。
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