口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
6・持ち帰り仕事と送別会
 ──三月上旬。

 清広が一枚のメモを残して姿を消してから半月後。
 卒園式を目前につぐみは、終わらぬ仕事に明け暮れていた。

(どうしよう。終わらない……)

 つぐみは卒園式を行う際に壁へ飾るペーパーフラワーや、園児達に渡すメダルなど──主に細々とした工作を担当することになったのだ。
 清広がいないのをいいことに自宅のリビングテーブルへ材料を並べ、彼女は黙々と作業を続けている。

 休みをすべて費やしても間に合うかどうか怪しい作業状況では、息抜きなどできるはずがない。
 焦る気持ちと蓄積された疲労がごちゃ混ぜとなり、ますます作業効率が落ちる悪循環に陥っていた。

「あーあ……。もう、駄目だ……!」

 一人でいるのをいいことに、つぐみはほとんど口にしない弱音を吐き出す。

 ──もう、限界だった。

 開き直って寝たら、作業効率が上がるかもしれない。

 スマートフォンを手繰り寄せたつぐみは、タイマーを設置し一時間だけ昼寝をしようとして──。

「……どうした。顔色が悪い。困りごとなら、力になるぞ」
「──清広さん……?」

 ──つぐみは清広の幻覚を目にして、ゴシゴシと目を擦る。
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