口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(せっかく清広さんが、帰ってきたのに……)

 寝ている場合ではないと何度も自分に言い聞かせても、彼の膝に頭を載せただけで、すぐに眠気がやってきた。

「時間が経ったら、起こしてやる」
「私が気持ちよく眠っているからって、そのままにしないでくださいね……? 本当に、間に合わなくて……」
「わかっている。夫の言葉を信じろ」
「……はい」

 清広の命令に弱いつぐみが渋々返事をすれば、彼の大きな手が彼女の目元を覆う。
 あっと言う間に視界が奪われて真っ暗になり、意識が遠のいていく。

(私は、清広さんの妻……)

 微睡む意識の中で、つぐみはある強迫観念に駆られていた。

 妻は仕事から疲れて帰ってきた夫を笑顔で出迎え、彼を癒やすべきだと。

(寝ている場合なんかじゃ、ないのに……)

 つぐみは必死に意識を保とうと試みたが、身体は睡眠を求めている。

「つぐみ。五分経ったぞ」
「もう少し……」

 ──つぐみは清広から五分ごとに声をかけられるたびに、延長を申し出て──。

 完全に意識を覚醒させたのは、それから三十分後のことだった。
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