口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「優秀な人材に甘い蜜を吸わせ、生涯幸せな暮らしを続けさせるほど自衛隊は甘くない」
「……そうですね」
「あちこちを行ったり来たりしている私を見て、他人事のように思っているかもしれないが……。すぐに君も、私と同じ経験をするだろう」

 ──出る杭は打たれる。

 清広は真面目に勤務をしすぎたのだ。
 目黒は遠回しに、そう伝えている。

 高卒で海上自衛官になった清広は、飛ぶ鳥を落とす勢いで順調に海曹長まで登り詰めた。

 このまま定年まで勤め上げれば、三年から五年に一度の転勤や配置換えを経験しながら穏やかな暮らしを続けられるが、それは理想であって現実ではない。

 毎年二月に行われる部内選抜の試験に合格すれば、幹部候補生学校で九か月間の厳しい教育を経て、半年間の海外遠征後に三等海尉となる。

 つまり、幹部になるのだ。

 早ければ一年、遅くと三年以内に転居を伴う全国転勤が必要となる。

 潜水艦に乗り続けることもなくなり──陸上勤務に配属されることもあるだろう。
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