口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「清広しゃん……」

 自宅に戻ってくれば、つぐみはぱちぱちと何度も瞬きを繰り返しながら意識を覚醒させる。
 彼女は自分の意思で玄関の縁に腰を下ろすと靴を脱ぎ、清広の腕を掴む。

「どうした」

 彼が眉を顰めて問いかければ、つぐみは熱に溺れた瞳で夫を見上げると、舌っ足らずな口調で宣言した。

「安堂しゃんの妻は、わらしだけです……」

 彼女の旦那に対する独占力を垣間見た清広は、ついに自分を抑え切れずに──理性を手放してしまった。

「つぐみ」

 清広から名前を呼ばれたつぐみは背伸びをして唇を触れ合わせると、自ら積極的に舌を絡ませる。

 互いの唾液が混ざり合う激しいキスの応報を繰り広げているだけでも、このうえない幸福感を感じ、心が満たされていく。

 挙式の際同僚にせがまれ、仕方なく交わした情熱的なキスよりも激しい口づけを、愛する人と済ませたからだろうか。

 つぐみは幸せそうに、微笑んだ。

「清広しゃんに名前を呼ばれるの、大好き……」

 言葉だけでは足りない。

 夫婦になった今だからこそできる経験をしたい気持ちでいっぱいになった清広はつぐみを抱き上げると、寝室に向かった。
< 136 / 160 >

この作品をシェア

pagetop