口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
8・あなたはいつも、私を悲しませる
 ──六月中旬。

「幹部候補生学校へ、入校することになった」

 久しぶりに顔を合わせた清広は、固い表情で淡々とつぐみに告げた。

(学校って……?)

 自衛隊の仕組みをよく知らない彼女は、頭の中ではてなマークを飛ばしながら彼に問いかける。

「それは、どう言う意味でしょうか……」
「約八か月間、学生として過ごすことになる。盆休みと正月は休暇となるが、それ以外では顔を合わせられない」
「今よりずっと、会える時間が増えるってことですか? 嬉しいです!」
「……ポジティブに考えるなら、そうだな。だが……ネガティブなこともある」

 清広はつぐみの思わぬ言動に面食らっていたが、すぐさま暗い表情で続きを話す。

「来年の二月に卒業すれば、すぐに支援艦へ乗り込み、遠洋練習航海へ向かう。陸に戻るのは約半年後──つまり、七月だ」
「それの一体、どこが問題なのですか。スケジュールが事前にわかっている分だけ、普段よりはマシに思えます」
「つぐみ……」

 ことの重要さを理解できていないつぐみと、暗い顔で重苦しい言葉を吐き出す清広の会話は、どこまで行っても平行線だ。
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