口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 このまま丁寧に説明したところで日が暮れるだけだと悟った彼は、はっきりと愛する妻に宣言した。

「──幹部になれば、一年から三年単位で全国転勤がある」
「そう、ですか……」
「来年の七月、俺は必ずこの地を離れる。どこに飛ぶかわからないんだ。着いてきてくれとは言えない」

 つぐみの生活環境を変化させるわけにはいかないと苦しそうに眉を顰めながら伝えた清広は、ジャケットのポケットから緑の紙を取り出した。

「縁を切るなら、このタイミングしかないと思っている」

 つぐみの前に差し出されたのは、離婚届だ。
 それを目にした彼女は、信じられない気持ちでいっぱいだった。

「どう、して……ですか……。もう二度と、私を離さないって! 言いましたよね!?」

 清広に裏切られるのが嫌だと涙ながらに語るつぐみに、彼は何度も愛を囁き、約束した。

 それを反故にするつもりなのかと、彼女は怒りを爆発させる。

「これからは君の人生を、自由に歩んでほしい」

 だが、彼は固い表情でつぐみを突き放した。

 清広の中ではすでに、離婚することが決定しているのかもしれない。
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