口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「ずっと、一緒がいい……」

 彼は自分も同じ気持ちだと言うように、繋いだ指先に力を込めた。

(寂しいとも言わず、顔を合わせた時、笑顔で迎え入れてくれる。そんなのは幻想だ)

 清広がつぐみと一緒にいるだけで、無理を強いているのは明らかだ。

(自分の身体を休めることよりも、つぐみを愛していると伝えることを最優先にしなければ……)

 二人の愛はいずれ、粉々に砕け散ってしまうだろう。

 危機感を抱いた彼は、愛する妻の髪にかかった前髪を横に退けてやる。

「捨てないで……。いつか、一緒に……」

 ──その先に続く言葉が、彼女の口から聞こえてくることはなかった。

(俺はつぐみを苦しませる、天才だな……)

 清広にとってつぐみは、彼の休息に欠かせない生活の一部となっている。

(たとえ泣きながら懇願されたとしても、手放すつもりはない)

 清広は眠るつぐみの額に唇を落とすと、ゆっくりと目を瞑った。
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