口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(約束、守ってくれたんだ……)

 清広にその気があれば、今頃つぐみはベッドの上で一糸まとわぬ姿を晒していたはずだ。

(清広さん……。気持ちよさそうに、眠っている……よね……?)

 最悪の事態だけは免れたと安堵した彼女は、じっと彼の様子を観察する。

(今なら、逃げられるかも……)

 あれほど腰元をきつく抱き締めていた腕が離れていると知ったつぐみは、これが最後のチャンスかもしれないと考え、行動を開始する。

(抜き足、差し足、忍び足……)

 手繰り寄せたシーツを足元までゆっくりと動かしたあと畳み、ベッドから降りようとした瞬間──彼女の腹部に手が回った。

「どこに行くんだ?」

 目にも留まらぬ早業でつぐみを抱き寄せた彼は、寝起きのせいか。
 鋭い瞳で彼女を睨みつけた。

(……十年前は、私に不機嫌そうな姿を見せなかったのに……)

 清広の新たな一面を知ったつぐみは、清広を激怒させる必要はないと考えたのだろう。
 逃げるのを諦めると、何事もなかったかのように朝の挨拶をした。
< 27 / 160 >

この作品をシェア

pagetop