口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 清広は先程までの不機嫌そうな目つきが嘘のように、口元を綻ばせた。
 彼の姿を確認したつぐみは、身に着けている衣服が昨夜とは異なることに気づいた。

(私が寝ている間に、一人だけ身支度を整えたんだ……)

 ブラウスの第三ボタンまで開放された胸元からは、鍛え抜かれた筋肉質な肉体が見え隠れしている。

(一体、なんのアピールなんだろう……)

 清広から離れることを許されないつぐみは、白のドレスに着替えることすらできないと言うのに。

(こんなの、あんまりだ)

 思わず非難の目を向ければ、清広がつぐみに声をかける。

「どうした。俺の身体に惚れたか」

 そんな冗談を真顔で言われても、どう答えればいいのかわからない。
 つぐみはか細い声で、彼をじっと見つめていた理由を告げた。

「着替えたんですね」
「ああ。礼服は借物だからな」
「清広さんだけ、ズルいです……」

 つぐみから羨ましがられた清広は目を見張ると、彼女を抱きしめる腕の力を強めた。
 やはり、手放したくないようだ。
< 28 / 160 >

この作品をシェア

pagetop