口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「つぐみは何を着てもかわいいから、なんの問題もない」
「清広さんが気にしなくても、私が気にするんです」
「なら、一緒にシャワーを浴びるか?」

 つぐみは頭を抱えたい気持ちで、いっぱいになった。

(どうしてそうなるの……?)

 清広はすでに、身支度を整えたのだから。
 つぐみに付き合い、身を清める必要などないはずだ。

 理解に苦しむ彼女が難しい顔をしていれば、彼はつぐみが理解しやすいように補足説明をした。

「職業柄。何度も湯浴みをしても、匂いが取れなくてな……」

 清広の言葉を受けたつぐみには、心当たりがあった。
 起きた際に感じた、異臭に近い香りのことを。

「潜水艦は、換気が不十分だ。匂いが充満し、乗組員の身体にも染みついてしまう」
「そう、なんですか……」
「ああ。陸にいる間、入念に身を清めればある程度は落ちるが──船に戻れば元通りだ。気にしても仕方ないと諦めている」
「……でも、昨日は……」
「この独特な匂いで嫌われては、元も子もないからな。悪あがきをしてみたんだ」

 清広はどこか恥ずかしそうに口元を綻ばせながら、つぐみに告げる。
 やはり昨日は香水を使い、香りを誤魔化していたようだ。
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