口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「この近くに、住んでいるのか」
「清広さんには、関係ありません」

 職業を打ち明けたのは、花嫁との関係性に説明がつけられないからだ。
 住んでいる場所までを素直に伝えたら、彼が連日押しかけてくるかもしれない。
 そう危惧した彼女は、つぐみらしくもない低い声できっぱりと吐き捨てた。

「俺はここから徒歩で、数十分程度の場所に住んでいる」

 自分の住居を曝け出すよりも先に聞いたのが、悪かったと反省したのだろう。
 清広はつぐみには必要のない情報を口にすると、再び彼女を誘う。

「俺と一緒に、暮らさないか」

 結婚すれば当然、一つ屋根の下で暮らすことになる。

(清広さんは私を、馬鹿にしているの……?)

 それを断っているのだから、彼がどれほど生活水準の高いマンションに住んでいると打ち明けて来たところで、つぐみからの了承を得られるわけがない。

「嫌だと言ったら?」
「では、付き合ってくれ」

 結婚、同棲、交際──。

 明らかに順序が逆としか思えない内容を立て続けに提案された彼女は、どうやって彼の好意を断ればいいのかわからず、困惑するしかなかった。

「ですから。私は──」

 これで駄目なら、引っ叩いてでも彼の腕から離れよう。
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