口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 清広のデートは、洋服選びから始まった。

「お待ちしておりました、安堂様」

 普段つぐみが恐れ多くて素通りするような高級ブランドに堂々と入店した清広は、どうやらこの店の常連客であるらしい。
 名字を呼ばれ、にこやかに女性店員から挨拶をされた彼は、恐縮することもなく堂々と言い放つ。

「取り置きしていたものを、彼女に着せてくれ」
「かしこまりました」

 清広は困惑するつぐみの指先を離すと、ひらひらと手を振り試着室へと送り出した。

「安堂様より、お連れ様が気に入ったものをご試着なさるようにと仰せつかりました。こちらから、お選び頂けますでしょうか」

 つぐみの前にカラカラと音を立てて運び込まれたハンガーラックの上には、十着ほどの衣服が並べられている。

 そのどれもがフェミニンな印象を与えるパステルカラーの女性らしいものばかりで、つぐみはなんとも言えない気持ちでいっぱいになった。

(懐かしいな……)

 かつてつぐみは、何かと娘を着飾るのが好きな母親の影響によって、こうした女性らしい服を好んで身に纏っていたのだが……。
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