口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(なんだか、しっくり来る……)

 試着室で差し出されたワンピースに着替えたつぐみは、鏡に映る自分の姿を目にして、思っていたよりは悪くはないと首を傾げる。

(ハイブランドの洋服は、一般流通している商品とは品質が違うのかも……)

 その理由が高級品だからと考えたつぐみは試着室から出ると、店員とともに清広の元へ戻った。

「お待たせいたしました」
「……よく、似合っている」

 彼女の姿を目にした清広は優しく微笑むと、店員に向かって指示を出す。

「このまま着て行っても?」
「かしこまりました」

 清広の言葉を耳にしたつぐみが驚いている間に、店員は袖に付けられていた管理タグを外してしまった。

「あ、あの……。清広さん……」
「値段なら、気にするな」

 その流れで当然のように会計を済ませた清広は、戸惑うつぐみの隣に立つと再び指を絡めて店を出る。

(私が知らない十年間の間に、何があったのだろう?)

 身に着ける服に無頓着だったはずの清広は、つぐみにハイブランドのワンピースをプレゼントしてくるような男になってしまった。

 十年前はお互いに言葉を交わさなくても、なんでも分かり合える関係だったのに──。

(これじゃ、一緒にいる意味なんて……ない……)

 つぐみは清広の考えていることがわからず不安でいっぱいのまま、次のデートスポットへ向かった。
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