口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
3・想いを通じ合わせて、あなたが消えて
 つぐみを抱き上げた清広は、デートを中断して彼女を自宅へ連れ込んだ。

「そんなに急がなくても……」
「つぐみは気分屋だからな。明日には態度が、百八十度変化しているかもしれない。それでは困るんだ」

 清広は心の底から今の彼女を信じ切れていないようだ。
 交際を了承したあとも手を離したら、逃げられてしまうのではと恐れているらしい。

(心配性を通り越して、依存しているとか言うか、なんと言うか)

 つぐみは清広の精神状態を心配しながらも、彼のぬくもりを堪能しつつ二十階建ての高層マンションに足を踏み入れた。

 彼が暮らす部屋は、七階の角部屋。
 駅から徒歩十五分、職場までは徒歩約十分ほどの距離だろうか。

 間取りは2SLDK。
 バス・トイレ別、六帖の洋室が二部屋と、四帖のサービスルーム。
 十六帖のLDK──二人暮らしなら、ゆとりのある生活を営めそうな部屋だった。

「引っ越しの手配は済ませた。明日には荷物が来るそうだ」
「そんなに早く……?」
「金を積めば、どうとでもなる」

 清広はつぐみの履いていたハイヒールを丁寧に脱がせると、玄関に揃えて置く。
 やっと自分の足で歩けるのかとつぐみがほっとした様子を見せれば、再び彼に抱き上げられてしまった。
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