口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……)

 つぐみの心の中では、さまざまな感情が荒れ狂っていた。
 怒り、悲しみ、困惑。そして、驚き。

「もう二度と、縁起の悪い話を口にしないでください」
「ああ……」
「最悪の状況なんて、考えたくもありません」

 命さえ繋がっていれば、破局しても再び巡り会える。
 今のつぐみと清広のように。

 だが、命が失われてしまえば、元も子もない。
 もう二度と彼に愛を囁いてもらうこともできなければ、こうして触れ合うことすら叶わないのだ。

(心を許した瞬間、私の元からいなくなってしまったら……)

 つぐみは今度こそ、立ち直れないだろう。

(……悪い方向に考えるから、苦しくなるんだ)

 もしもの可能性に怯えた彼女は、唇を噛み締め必死に心を落ち着かせる。

 清広に弱いところを見せたくない彼女は──冷静なふりをすると、話題を変えるために言葉を紡いだ。

「清広さんとともに暮らす上でのデメリットよりも、メリットの話をしませんか」
「ふむ……。何不自由なく暮らせるだけの、蓄えはあるからな。全財産はつぐみに預ける。好きなように使ってくれ」

 金銭的な余裕が清広にあることは、高級ブティックに連行された時からわかっていた。
< 51 / 160 >

この作品をシェア

pagetop