口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 ──土曜に目黒夫妻の披露宴を終え、日曜に清広と同棲することになったつぐみは、月曜の朝から通常通りに出勤する。

(清広さんがいない……)

 ベッドの上で目覚めたつぐみは寝ぼけ眼を擦りながら清広の姿を探したが、何度部屋の中を確認しても彼の姿は見当たらない。

(まさか、もう……。仕事に行ったんじゃ……)

 急いで身支度を整えたつぐみは、不安な気持ちでいっぱいになりながらリビングに向かう。

「おはよう」

 そこには朝食の準備を済ませた清広がおり、優しく口元を緩めながら彼女を出迎えた。

「……おはよう、ございます……」
「時間に余裕があったからな。食事の準備は、こちらで簡単に済ませておいた」

 お皿の上に並べられたトーストとサラダ、スクランブルエッグを目にしたつぐみは、何度も目を瞬かせながら意外そうに言葉を紡ぐ。

「清広さんって……。料理、作れるんですね……」
「料理と呼べるほどではない。切って焼くだけなら、誰にだってできるだろう」

 何もかもが面倒で食パンやおにぎり一つで済ませて出社するつぐみにとって、清広の謙遜は耳が痛い。
 難しそうな顔で渋々対面の席に座ったつぐみは、清広とともに雑談をしながら朝食を口に運ぶ。
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