口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 つぐみは保育園に登園すると、元気いっぱいに走り回る二歳児を、二名の保育士達とともに保育する。

 おもちゃを取られて泣く子どもをあやし、トイレの介助を行い、庭園で楽しそうに遊ぶ園児達を見守り、寝かしつけるのは体力がいくらあっても足らない重労働であった。

「金沢先生、ちょっといいかしら?」

 園児をやっとのことで寝かしつけたつぐみが、子ども達を見守りながら連絡帳に取り掛かろうとした時のことだ。
 一昨日披露宴の主役として純白のウエディングドレスに身を包んでいた花嫁、目黒に話しかけられたのは。

「目黒先生……」

 上司の前で作業をしながら話をするなど、失礼に当たる。
 つぐみは手を止め、話を聞く体制になったのだが──。
 目黒はそれに待ったをかけた。

「いいのよ。気を使わなくて。仕事をしながらで構わないわ」

 保育士達は誰もが山積みになった仕事をどうにかしようと必死になっている。
 本来であれば、無駄口など叩く暇などないのだ。

 そんな状態でもつぐみに話しかけてくるあたり、重要なことなのだろう。

(一昨日トラブルを起こした件のこと、突っ込まれるかな……)

 戦々恐々としたつぐみは作業を再開しながら、目黒の言葉に耳を傾けた。
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