口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(自分の仕事が、増えるから……)

 目黒の妻は迷惑をかけるなと、遠回しに釘を差している。

 つぐみは連絡帳の記入を終えると、パタリと音を立てて閉じ──頭を下げた。

「ご心配をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。プライベートな感情は仕事に持ち込まないように、気をつけます」
「そう……? 離れている時間が長ければ長いほど、冷めやすくもあるけれど──愛は盛り上がるものよ。どうぞ、末永くお幸せにね」

 目黒はつぐみにそれだけを伝えるために、わざわざ話しかけてきたようだ。

 用は済んだとばかりにさっさと教室をあとにした上司の後ろ姿を見送ったつぐみは、心の中で吐き捨てた。

(くだらない……)

 女同士の職場は、こうした足の引っ張り合いがあるから面倒なのだ。

 ──プライベートなことは職場に持ち込まない。
 それは、社会人として当然のことだ。

(プライベートにうつつを抜かして。いつも通りに仕事をこなせない無責任な人だと、目黒先生から勘違いされていたなんて……)

 自己嫌悪に陥ったつぐみは泣きたい気持ちでいっぱいになりながら、どうにか気持ちを切り替える。

(……忘れよう。こんなことを、気にしている場合じゃない)

 何度も自分に言い聞かせた彼女は机の上に置かれた連絡帳の山に手を付けると、一心不乱に文字を描き続けた。
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