口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(遅くなるって、清広さんに連絡する暇もないな……)

 子どもの前で、スマホを弄るわけにはいかない。

 荷物を壁際の目立たないところに置いたつぐみは、壁掛け時計が二十時を指した光景をぼんやりと見つめた。

「ママ、まだー?」
「もう少し、かな……」

 延長保育終了時刻になっても、園児の保護者は迎えに来る様子がない。

(待っている時間が、一番つらいんだよね……)

 大人のつぐみだって早く帰りたくて仕方がないのだから、朝から晩まで母親から引き離された子どもの不安や寂しさは相当なものだろう。

「どれくらい……?」
「ええと……」

 つぐみは迎えを待ち切れない様子の園児を抱き上げ、どう説明すれば伝わるだろうかと困惑した様子のまま窓の外を見つめた。

「かにゃじゃわせんせ! 誰か来たー!」

 ──すると、保育園の敷地内にある変化が訪れた。

「ママー!」

 懐中電灯の明かりのような小さな光が、こちらに向かってやってきたのだ。

 つぐみに抱きかかえられた園児は、迎えにやってきた母親だと勘違いをして、嬉しそうに窓の外に手を振るが──。

 すぐに異変を悟り、肩を落とした。
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