口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(清広さんに裏切られた経験さえ、なければ……)

 つぐみはあの日の出来事を記憶から抹消したい気持ちでいっぱいになりながら、食事を終えた。

「ごちそうさまでした」

 椅子から立ち上がったつぐみは自分が使っていた食器を片付け、清広の食事が終わっていることを確認する。

(食器、片してもいいのかな……?)

 つぐみはゆっくりと空になった皿へ手を伸ばす。
 清広は何かを深く考えているようで、彼女の方を見ようともしなかったからだ。

「清広さん……」

 つぐみは彼にひと声かけてから、食器を回収しようとしたのが──その手は勢いよく掴まれ、清広の元へと引き寄せられる。

 ──悲鳴を上げる暇もなかった。

 二人の視線が、絡み合う。

 目を見開いた清広は、やっと自分がつぐみを抱き寄せていることに気づいたのだろう。
 左手を背中へ回して彼女を抱き止めると、そのまま顔を寄せ──。

(……あ。キス……)

 このままでは唇が触れ合ってしまうと、わかっているのに。

 つぐみはそれが嫌ではないと、感じている自分に気づいた。

(清広さんと、なら……)

 彼とならば、何度だって口づけを交わし合いたい。

 清広を受け入れたつぐみは、その時が訪れるのを心待ちにしていたが──。
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