口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(どうしたんだろう?)

 その時は、一向に訪れる様子がない。

 不思議そうに彼と目線を合わせていた彼女は、清広が唇を噛み締めたあとに深いため息を溢す瞬間を見てしまった。

(私とキスをするのは、嫌だってこと……?)

 物事を悪い方向に受け取ったつぐみが、内心強いショックを受けていることなど、知りもしない。
 清広は彼女に何が起きているのか伝わっていないことに気づき、か細い声で直前で口づけを止めた理由を告げた。

「電話が……」
「着信、ですか……?」
「すまない」

 どうやらバイブレーションに設定していた清広の携帯が、ポケットの中で振動していたらしい。

 許可なく衝動的に唇を触れ合わせようとしたことに対する謝罪か、電話に出るための断り文句か。

 つぐみから身体を離した彼はそのまま彼女を押し退けると、スマートフォンを片手に廊下へ出て行ってしまった。

(びっくりした……)

 清広の行動は、心臓に悪い。

 彼は距離の詰め方が、とにかく強引なのだ。
 ゆっくりと自分達のペースで元の関係に戻りたいつぐみは、どうしてもそのスピードについていけずに尻込みしてしまう。
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