口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(そんなに急ぐ必要、あるのかな……)

 つぐみと清広のどちらかが別れを切り出さぬ限り、二人は交際したまま、同棲を続けるはずだ。

(このままずっと一緒にいても、結婚なんて考えられないよ……)

 複雑な気持ちを胸に抱いたまま食器を片づけて皿洗いを済ませたつぐみは、そうっとリビングの扉を開いて廊下を覗き込む。

 随分と長い間電話をしているので、大丈夫だろうかと心配になったからだ。

 だが──。

(あれ……?)

 いつの間にか、彼の姿は消えていた。

(部屋に、戻ったのかな……?)

 つぐみは恐る恐る清広の部屋に繋がる扉の前に立ったが、室内から彼の話し声が聞こえてくることはない。

(電話中だったら、気まずいし……)

 外で電話をしているのかもしれないと考えたつぐみは、ひとまず寝る準備を済ませようと決めて浴室へと向かう。
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