口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 清広が思わせぶりな発言をしたまま、黙り込んでしまったからだ。

(暑い……)

 少し彼と立ち話をしただけで、彼女の額から汗が流れ落ちていく。
 その様子を目にした清広は、ここが外であると思い出したようだ。
 彼女を軽々と抱き上げると、先ほどまでじっと黙っていたのが嘘のようにつぐみへ諭した。

「帰ろう」
「ひ、一人で歩けます……!」
「筋トレの一環だ」

 抱き上げられて帰路につくことを恥ずかしがったつぐみにピシャリと言い放った彼は、当然のように彼女を抱き上げて歩き出す。

(筋トレなら、仕方ないかな……)

 つぐみは無理やり自分自身を納得させると、彼の腕の中で逞しい胸元に身体を預けた。
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