口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
 いくら結婚を前提として付き合い始めているとしても、物事には順序がある。
 そうしたことは、心を通わせたあとにするべきだ。

(清広さんの前ですべてを曝け出せば、素直な自分の気持ちを打ち明けられるかもしれないし……)

 彼の前でなら構わないと考えている時点で、清広が金沢つぐみの人生に欠かせない存在になっているのは誰が考えても明らかだ。

 つぐみはドキドキと高鳴る胸を抑え、潤んだ瞳で彼を見上げ──。

「あ……」
「冗談だ」

 返答をしようとしたところ、不発に終わった。

 清広が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと腰へ回していた腕を離してしまったからだ。

(ドキドキして、損した……!)

 この先を期待していたことを清広に知られたくなかったつぐみは、逃げるように彼の腕から抜け出る。
 普段であれば彼女を離さないようにきつく抱きしめる清広も、今回ばかりは空気を読んだ。

「お風呂に入ってきます……!」
「ああ。行って来い」

 彼に送り出されたつぐみは、逃げるようにその場を離れた。
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