連理の枝と比翼の鳥 リアムとトビアス
「桃の花はピンク色だが、墨の濃淡で花の盛りから、花びらが舞い落ちるまでが描かれている。
黒は際立たせ、淡いはぼかして曖昧にしてしまう」

彼は山並みの上を指した。

「この余白は空を示している。描かない部分は、見る人のイメージをかき立てるので重要なんだ」

その東洋の水墨画の講義を聞きながら、僕は素早く次の段取りを考えていた。

あのルーミンという助手が来る前に・・・

締め上げて、暗証番号を聞き出し、すぐに足環を外す。
それから金目のものを、盗って逃走する。

「絵のモデルだが、いくつかポーズを決めたい。ここより温室の方が温かくていいだろう」

マンダレイ氏は棚にあったレースの刺繍の扇を手に取った。

マンダレイ氏が先を歩く。

廊下の突き当り、二つドアを開けると、そこは光が射しこむ温室だった。

背後から首を絞めて・・・ロープか何かで・・・

僕が一歩出た時、マンダレイ氏が振り向いた。

「あそこの籐の椅子に座ってくれ。この扇を持って、君の楽なポーズでいい」

彼の穏やかなアンバーの瞳、静かな口調、そこにはまったく警戒心がないようだ。

僕はちょっと考えた。
< 19 / 70 >

この作品をシェア

pagetop