連理の枝と比翼の鳥 リアムとトビアス
トビアス様は、本当に手のかからないご主人様だ。
朝食は冷凍してあるパンを解凍し、軽くトーストする。
バターかオリーブ油を添えて、コーヒーもインスタントで入れるだけだ。
昼食は冷凍パスタを、電子レンジで温め盛り付ける。
夕食はケータリングサービスが届けるディナーだが、ほとんど冷めている状態で配達される。
そして、朝、昼、晩に飲む大量のサプリメント。
夜は睡眠導入剤と安定剤を飲むが、強度の不眠症のためとファイルに書いてある。
冷たい食事でもトビアス様は文句を言わないが、僕の方が耐えられなかった。
組織のボスはかなりの美食家で、食事は重要だった。
専属料理人がいて、僕も毎日手伝いをし、味見と称して美味い料理を堪能できたのだ。
過酷な待遇であっても、温かくて美味い食事は、明日への生きる意欲をもたらす。
トビアス様は食堂で、僕は台所で食事をするのだが、彼は2階の書斎からなかなか降りてこない。
ドアをノックして、ようやくパジャマ、ガウン、髪はボサボサで出てくる。
「ああ、リアムか。おはよう。食事はいらない。コーヒーだけでいい」
そう言って、すぐにまた書斎に引っ込もうとする。
書斎で寝て、起きて原稿や論文を書いているらしい。
書斎は窓を開けて換気をしていないので、煙草と酒の臭いで充満している。
「トビアス様、シャワーを浴びるとすっきりしますよ。その間にここを掃除しますから」
「ああ、わかった」
僕は気合を入れるように、モップの柄をトンと床についた。
トビアス様は、自分の体や周囲の環境に関心がない。
いつもぼんやりと遠くを見つめるような目をしているが、唯一生気を感じられるのは東洋の絵画や巻物(掛け軸というらしい)、色紙など手に取っている時だ。
トビアス様は・・・植物のようだ。