連理の枝と比翼の鳥 リアムとトビアス

秘密兵器の名前

ブイヤベースを口に運びながら、トビアス様が最初に言った。

「私は犬を飼ったことがない。予防注射とか、必要なんだろう?」

子犬はドッグフードを山ほど食べて、食堂脇の通路に寝そべっている。

「はい、明日、獣医のところに連れていきます。
あと、散歩用のリードとか、おもちゃも買ってやりたいですし」

最初は、トビアス様を書斎から引っ張り出す小道具のひとつとして、子犬を使おうと考えていた。

しかし、この子を見た瞬間、僕の計画はぶっ飛んでいた。

正直、メロメロになったのは、僕のほうだ。

温かくて、フワフワで小っちゃくて、黒いつぶらな瞳とかわいい鼻。

この館の静かな空間が、子犬のトテトテ走り回る音でかき乱される。

そして、何よりもかわいいしぐさに、心がなごむ。

「その名前は・・何と言うのかね?」

僕は眠くて、ウトウトしている子犬の小さな頭をなでながら、

「まだ、決めていません。トビアス様が名前を付けてください!!」

彼はフォークを皿に置いて、少しの間、考え込んでいた。

「呼びやすい名前がいいだろう?雄か雌、どっちかな?」
「雄です」

「それならば・・マランというのはどうかね。最近、気に入った画家の名前だが」

マラン・・・マラン

「素敵です。お前も気に入ってくれるよね。マラン!!」

小さくてフワフワの子犬の手をそっと握ると、「YES」というように、ぺろりとなめてくれた。
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