凍った花がとけるとき
 誠治とは社内恋愛だった。
 三つ年上で、部署は違えど担当している業務が密接に関係していて、仕事で顔を合わせる機会が多かった。リーダーシップもあっていつもみんなを引っ張っていってくれる彼に、自然と惹かれた。
 とある企画で同じチームになって、その時も集められたみんなが「浜田さんがいるから大成功だよね」と始まってもいないのに笑い合えるような、そんなひとだった。キックオフミーティングのあとに開かれた、居酒屋での懇親会の帰りのことだ。二次会に向かうみんなを見送って、駅に向かって歩こうとしたまさにその時、くいっと腕を引かれた。
 突然の感触に驚いて振り返る。そこにいたのは、恥ずかしそうに視線を少し外した誠治だった。
 驚いて固まっている私に「送っていく」と言ってくれた。
「でも……二次会、いいんですか?」
「うん。今日は三崎さんといたいから」
「え……?」
 かけられた言葉に、ぽかんと見上げる。
 すると外されていた目線が、はっきりとわたしを捕らえた。
「ずっと気になってたんだ。その……いつも明るくみんなをフォローしてくれるところが、いいなあと思って」
 そう言われて、飛び跳ねるこど嬉しかったことを、よく覚えている。 
 先輩後輩問わず、いつも人に囲まれていた。そんなひとに、見ていてもらえたという事実に。そして、まさかわたしを選んでくれるとは思わず、夢見心地だった。

 それから大きな喧嘩をすることもなく二年付き合ったころ、誠治からプロポーズされた。わたしは25歳で、誠治は28歳。適齢期だったし、そろそろかなあと思っていたものの、実際に目の前で輝く婚約指輪をみたときには涙が溢れた。

 それなのに。
 あまりに突然、しかも呆気なく伝えられた別れの言葉は、思っていた以上にわたしの心を深く抉った。
 だから、決めたのだ。
 もう、結婚の約束はしない。
 いや。もう、恋なんてしない。

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