凍った花がとけるとき

10.名前を呼んで

 副社長のスイッチは、自由自在に切り替えられるのだろうか。

 お互い少しだけ残業をして、副社長と一緒に帰宅した。
 手を洗ってエプロンをつけ、今日も今日とて用意されたものを温めるだけ、というありがたい夕食を準備するためにキッチンに向かおうとすると、くいっと腕を引っ張られた。
「どうかしました?」と問いかけると、副社長はきょろきょろと目を動かしてから、「ご飯、後にしない?」と言ってくる。
 どういうことだろう、と首を傾げていると、両肩を副社長に捕まれ、そのままぎゅっと抱きしめられた。わたしの肩に、副社長が顔を埋める。

「ごめん、もう限界」

 耳元で囁かれて、一気に顔が熱くなる。

「昨日、カッコつけて何もしないなんて言ったけど、もう無理」
「え……?」

 戸惑った声は気づかないふりをしたのか、副社長はゆるくわたしの手を引く。
 向かっているのは寝室。行き先はわかっている。手は振り解ける強さで握ってくれている。だけどわたしはその手をそのままにして、後についていった。
 それは、求められるのが嬉しかったから。
 そして窺うようにこちらを見てきた副社長の目が、しっとりと濡れていて――そんな目を見たのが初めてだったから。

 昨日も一緒にこの部屋で過ごしたのだから、わかっていた。扉のなかに入ってしまえば、数歩でベッドについてしまう、と。
 副社長がベッドサイドのライトに手を伸ばした。ぼんやりと、昨日と同じ温かい光で室内が照らされる。
 そのままベッドに腰掛けた副社長は、所在なく立ち尽くしたままのわたしの腰のあたりをぎゅっと抱きしめてきた。さらさらの髪に手を伸ばして軽く梳くと、すり寄るように抱きしめる力が強くなる。
 すとんと隣に座れば、すぐに両手で頬を押さえられ、唇が重なった。触れるだけのそれを繰り返しているうちに、知らず副社長の服をぎゅっと掴んでいた。その手を「こっち」と首にまわすよう誘われ、副社長との距離がさらに近づき、密着してしまう。
 咄嗟に体を引こうとしたけれど、強く唇を押し当てられて、叶わなかった。
 こつんと額同士が軽くぶつかった。副社長はふーっと細く息を吐いている。

「……いい?」

 短く問いかけられて、目を伏せるように頷いた。
 すると、とんっと軽い衝撃があって、気づけばベッドの上にゆるく押し倒された。
 跨ぐようにして、副社長がわたしを見下ろしている。すぐに噛みつくようにキスが落ちてきて、唇をぬるりと舐められた。
 かと思うと、息を継ごうと緩んだ唇の合間に舌が差し込まれた。
 舌を吸われたかと思うと、歯列をなぞられ、くぐもった声が漏れるのを止められない。必死に手を伸ばして、副社長の首にまわすと、また舌が絡まる。
 そのうちに副社長の手はやわやわと胸を撫で、そのままブラウスのボタンを外していく。ひとつ、ふたつと順調に進んでいたその手は、下ふたつくらいを残したままで止まり、荒々しく袖を抜かれた。
 下着の上から胸を触られて、思わず腰が揺れた。恥ずかしくて避けるためにそう動いたはずなのに、まるでねだるように体をくねらせてしまう。

「好きだよ」

 そう言うやいなや、背中にまわった指がぱちんとホックを外して、そのままブラを押し上げられた。あらわになったそこに、ひゅっと息を吹きかけられて、ぞわりと背中が疼く。
 副社長の大きな手が、左の胸を包むように触ったかと思うと、やわやわと揉みしだき始める。反対の胸は、先端をころころと指先で転がされ、自分の口からくぐもった声が漏れた。慌てて口を押さえようとするけれど、それより先にキスで遮られた。漏れる吐息も食べられてしまいそうなくらい激しく吸われて、余計に息が上がっていく。
 やっと唇が解放されて空気を吸い込んでいると、今度は右胸の先端を舐められた。

「やっ……」

 お風呂にも入っていないのに、と身を捩るけれど、副社長の手はわたしの体を押さえていて、びくともしない。舌で舐めるだけだったそこを、だんだん強く吸われるようになり、気づけば自分の中心からとろりと蜜が溢れ出ているのを感じた。
 それを隠すように足を擦り合わせていると、副社長はその動きに気づいたのか、スカートの中に手を入れてきて、そのまま内腿を撫でられる。必死に抵抗したけれど、呆気なく副社長の指は足の付け根まで届いて、下着越しに秘部に触れた。もうそこは濡れそぼっていて、下着が張り付いているのが、自分でもわかった。
 くすりと耳元で笑われて、羞恥に顔が熱くなる。

「やめ……」
「やだ。可愛い」

 副社長はそう言うと、下着の横から指を差し入れた。もうびしょびしょに濡れたそこは、少し撫でられただけで卑猥な音を立ててしまう。
 副社長の指は秘裂を何度か往復して、やがて離れていく。束の間ほっとしていると、今度は指が突起に触れた。突然の刺激に体が跳ねる。すべてを暴き出すように剥かれて、指で撫でられると、足先から頭のてっぺんまで全身が、今まで知らなかった快感に包まれる。

「ん……っ!」

 抑えきれない声が溢れる。何度も何度も擦るように撫でられ、どんどん息が上がって、呼吸が短くなっていく。と、唇に吸いつかれると同時に強く擦られて、視界が白く明滅した。
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