魔女と人間 〜共にある最期を迎える旅〜
『この鏡は何?』
『何か鏡に質問してみなさいな』
『うーん、この店は繁盛してる?』
『ワカリマセン』
『なんてこと聞くのよ』
『分からないって……もしかして繁盛してるの!?』
『何を聞いてもワカリマセンと答える鏡よ』
『マリアさんのセンスは、やっぱり面白いなぁ!』

 私は自分の名前まで教えてしまっていた。名前はと聞かれて、マリアと。もうこの世界にはいない母がマリアと呼んでくれていたから。
 
 どうして彼を好きになったのかは、分からない。一目惚れのような強い衝動はなかった。

 人と関わりたいのに追い返すような商品しか置かなかった。それなのに、あの人だけが喜んでくれた。

 商品を売っているはずの私に贈り物をしてくれたのも、あの人だけだった。

『マリアさんに、あ、いや、お店に似合うと思ってさ』
『そう……それで鉢植えごと葉牡丹を持ってきたのね。重かったでしょう』
『全然! これを店先に置けば、人がもう少しは来るよ』

 少しズレているなとは思ったけど、そこが可愛いと思った。自然に自然に、いつの間にか彼は私の世界に入り込んでいた。

『僕と一緒に店をやってほしい』
『ヒモはいらないわ』
『違うよ! これでも人脈はあるんだよ。浄化業で身を立てているから、魔道具の販売と浄化もしますって店にさ』
『いつの間に働いてたの』
『え……かなり前からね。雇われだったけど開業したんだ』

 少しずつ少しずつ、彼は会えないと寂しい存在になって――。

『好きなんだ。付き合ってほしい』
『もう付き合ってるじゃない』
『え!?』
『会話にも仕事にも付き合ってるわ』
『違うよ、マリアさん……。僕、諦めないから。今までと違ってチャンスはたくさんあるんだ。僕の気持ち、分かっていて共同経営に頷いてくれたんだよね?』
『ほとんどあなたの利益でしょう』

 王家から人が来ることにも、何も突っ込まないでくれた。ただただ自然に――、当たり前のように好きになってしまった。

 彼との会話が楽しくて。好意を感じるたびに顔がにやけて。モノクロの世界に虹が現れたように毎日が彩りに満ちて――。

 だから私は彼に聞いた。
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