あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
不安の種
漣の作った軽食を食べ終え入浴を終えた私はソファに腰掛け、数日後からいよいよ撮影に加わる大河ドラマの台本をぱらぱらとめくっていた。
時代は幕末。
魑魅魍魎渦巻く京の都の男達がひと時の夢を求めて訪れる花街・島原。その置屋に身を置く「天神」という高階級の芸妓であり、後に新選組としての名を残すこととなる壬生狼の集団、その参謀であった山南敬助の恋人とされた女性。
今回私が演じるのはその「明里」という女性だ。
鉄の掟と呼ばれた規律を破り逃走を図り、切腹を命じられた山南の最期の瞬間に彼女が訪れた「格子戸の別れ」の場面は、知る人ぞ知る悲恋のワンシーンだ。
「まさに幕末のロミオとジュリエットだね」
いつの間にか風呂場から出てきた漣がソファの後ろ側に立ちながらそう声をかけてきた。
「この話、知ってるの?」
「いや?白雪が台詞呟いてたの聞いてなんとなく」
漣が肩越しに顔を寄せてきて、髪から滴る水が肩へと落ちてきた。
「冷たいんだけど。早く乾かしなよ」
「これ、ラブシーンはあるの?」
「…まあ、少しくらいは」
「ふーん…」
漣が手を伸ばしてページを捲る。時折貼ってある私の付箋に書かれたメモに目を落としながら、むう、とわざとらしい言葉を吐いた。