あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
私を癒すひと


漣からのプロポーズを受けてからしばらく経った頃、私は萌葉の事務所を訪ねていた。

テナントのひとつを間借りしたその場所はセンス良く整えられており、私は社長室兼仮眠室である萌葉の自室に通され、手土産のケーキを広げていた。


「待って待って、交際からの結婚までの経緯が早すぎて追いつかないんだけど」


テーブルを挟んだ向こう側で萌葉は肘をつきながら頭を抱えていた。


「ただでさえ相手があのレンさんだって事も自分の中で落としきれてないのに」


そう言い、ちらりと私の手元に視線を送る。


「で、その馬鹿でかい指輪でしょ。もう何が何やら…霜月漣さんだっけ、本名。その人何者?」

「頭イカれてる人」

「いや…そういう事を聞いてるんじゃなくて…」

「冗談だよ。スタイリストだよ、あとは…インフルエンサー、なのかな?一応」


私は萌葉から出されたミルクティーを飲みながら淡々と答える。

漣の仕事については何処まで話していいか分からないし、正直スタイリストとしての彼の顔しか知らないから言える事が少ない。

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