あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
声が裏返らなくて良かった。
意識しているのはもうバレているかもしれないけれど。
そもそも、霜月さんがこんなにかっこいいのが悪いのだ。こんな人にあちこち触れられたら誰だって意識する。私はいたって正常だ。
そう言い聞かせていると、髪に触れていた霜月さんの低い声がまた耳に響く。
「髪、染めたことないの?」
「…はい」
動悸よおさまれ。そう念じながら答える。
「スカウトされたのが高校の時で、通ってたところは染髪NGで今は事務所からの指示で」
「白雪ちゃんスカウトだったんだ。可愛いもんね」
「どうも…」
私の経験上、初対面で可愛いと言ってくる男は胡散臭い。けれど霜月さんの言葉はあまりにも自然で欠片も嫌な気がしなかった。
「及川白雪って芸名?」
「いえ、本名です」
「変えようと思わなかったの?」
「特にこだわりなくて…。事務所もそれならこれでいこうって」
「確かに映える名前。仕事はモデルがメインかな」
「今はそうですね。お芝居したいんですけど、なかなかうまくいかなくて」
「そっか。いつか叶うといいね」