ハッピーエンド・オーバー
あきくんは優しい。優しいけれどその優しさはみな等しく、個を特別と思うべからず。私は隣人という立場であったからこそ、人よりも多くの優しさを傾けられてきた自覚はあるけれど、だからこそ、生あたたかい温度で溺死させるような、あの感覚をよく知っている。

甘ったるい目元と心地よい声で、どれだけ女性を誑かしてきたのだろう。


「つかなんで金ないの?ギャンブル?」


あきくんは大きな口を開けて肉を放り込む。
目まぐるしく変わる環境。あきくんと私の関係だけは平行線のまま時間だけが経過した。間違ってはならないものは距離感。その点、私とあきくんは上手に付き合えていると思う。

「ギャンブルはしません。色々あって、出費が嵩みそうで」

今のお肉が一番お高い部位で、それでもあきくんは価値には興味もなさそうに、そこに肉があったからという理由で選び、食べ、咀嚼する。

「何があったよ」

それと同等の熱意で彼は私の事情に深入りしてくる。ここはきっと越えても許されるライン。そう判断した私は、昨日から今日にかけて身に降り掛かってきた不幸を全て話した。

「ちょうどいい」

全てを話終えると、彼は私が欲した言葉とはまるで違う言葉を与えた。この男は鬼か、血も涙もないロボットか。

「ちょうどいい?」

不幸自慢が性にあわないのは認めた上で、今日くらい、寄り添って欲しかったのは事実。

「俺、今日、はるのこと迎えに来たんだよね」

その上で、彼は私の不幸を飲み干そうとする。
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