ハッピーエンド・オーバー
あれはなんの変哲のない放課後だった。忘れ物を取りに帰った私の他にも数名の男子が残っており、彼らはだらだらと放課後を過ごしていたようだった。

──……結婚???

脈絡もなく告げられたロマンスに、普遍的な時間が姿かたちを変えた。恋人でもなければ身体の関係もなく、ただの幼なじみである私に、何故そんなことを提案するのか。枢木晃仁の思考回路が掴めなかった。

「おい、おまえ晃仁、榛名(はるな)にも保険かけんの?」

どんだけ節操ないんだよ、と揶揄う男子たちに、私も、だよね。と同調する。

「ふざけてるの?」
「まあまあ本気」

ああ、まあまあ本気でふざけてるのか。それとも、男子特有(・・・・)のノリがそうさせているのか、私で遊びたいだけか。

「わかった。いいよ」

であるならば、幼なじみとしておふざけに付き合うのも一興だ。

枢木晃仁の、だれからも興味を持たれるくせに、どこにも興味を置かない、そんな性格を私はいちばん知っていたしいちばん近くで見ていたから、困惑はしたけれど驚きはしなかった。

どうせ彼のことだ。高校を卒業したら高校生活と同じように、大学で一番モテている美女を捕まえて、次から次に美女を渡り歩くように、だらだと付き合うに違いない。

どうせ恋愛が落ち着く20代後半には結婚して、30歳なったら子供を両脇に抱えたThe・幸せ家族〜な写真の年賀状を送り付けるような、そういう男だ、きっと。

真に受けず、私はちゃんと人生設計しよう。

「忘れんなよ?」
「うん。枢木くんはいつでも忘れてどうぞ」

ありとあらゆる、どうせ、を言い聞かせた。けれども、私の人生の片隅にいつもこの約束は残されていて、ひとつの恋が終わる度に、なぜ彼は私にあんな提案をしたのだろうと考えた。

考えても私は枢木晃仁では無いので、全く分からなかった。

< 3 / 41 >

この作品をシェア

pagetop