ハッピーエンド・オーバー
ふうん、そうなんだ、ふうん、と、自分の中に落ち着かせた。

「私も、所長が結婚祝いに焼肉かお寿司を奢ってくれるって」

それらを吐き出すみたいに所長の言葉をなぞった。こんなの、なんのマウントにもならないのに。

「飲み会の良い口実だな」

スリッパにつま先をもぐらせる。昨日も思ったけれど、ふかふかのスリッパは履き心地もいい。

「あきくんは人望がないから飲み会は開いて貰えないの?」

「人望がなきゃこんな花束貰わねえだろ。うちはバーベキューになりそう」

「ああ、いかにも陽キャ集団らしいね」

「その陽キャ集団に奥さんも参加されませんか?だって」

「塵になって消されそうだから、私は遠慮します」

「夕食の件もあるし、同じ日に決めようか」

「そうね」

話を煮詰めていれば、あきくんはさりげなく私の肩に手を伸ばした。その指先が私のバッグのストラップに軽く触れる。私がわずかに身を引く間もなく、するりとそれを滑らせ取り上げた。驚いて見上げると、あきくんはただ軽く目を緩やかに細め「おかえり」と柔らかくつむぐので「……ただいま」と目を伏せて答える。
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