ハッピーエンド・オーバー
「ショートカットは学生の時お腹いっぱい経験したからね」

あきくん用に用意してある" 理由その1"を告げた。

嘘じゃないけど、本当でもない。

もうひとつの理由は、口が裂けても教えるもんか。

「ショートも似合ってたよ」

あきくんの表情はいつも余裕が残されている。こんな簡単な言葉、歴代の彼女……いや、甘い言葉くらい、彼女とは言わず、女の子にはプレゼントし慣れているのだろう。彼の手はするすると毛先に落ちて、人差し指に絡める。

あきくんは昔から、私の髪で遊ぶことを趣味にしている。


「…………あきくんの褒め言葉は素直に受け取っていいのか理解に苦しむ」

「受け取りたいように受け取れば?」

「価値観を委ねるのはずるい男だと思うな」

「男の見る目がない女の言葉は染みるね」

「ちょっと、それ、どういう意味でしょうか」


私が言い返すと、あきくんは気持ちよさそうに口を開けて笑う。頬をくしゃっと緩めて無防備に笑うあきくんの笑顔は、たまに可愛い。




憧れの対象になっても、可愛いとは無縁な学生生活を送っていた。

だから、慣れるしかなかった。

あきくんの隣にいる可愛い女の子にも、向けられる敵意にも、同性・異性問わず理由なく燃やされる嫉妬心にも。
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