ハッピーエンド・オーバー
「まあ保険も出るだろうし、住宅補償使ってサクッと住むところ決めたら?」
杏桜はコーヒーを飲みながら「いっそマンション購入もいいじゃん。一緒に独身貴族を謳歌しよ」と、唆す。
「ま、とりあえず仕事も立て込んでるし、しばらくは職場で寝泊まりしようかなって思ってる」
サムズアップすると、杏桜はため息を落とした。既に会社宛に日用品が届くように手配している。こんな職場なので規則も消灯も警備も緩い。
「仕事人間ねえ」
「仕事に没頭しないと、どうかなりそうなの」
「追い込まれてるねえ」
「ここで仕事まで失ったら、私、生きていけないわ」
ぴえん、の顔を作って杏桜と笑い合う。
「実家に帰るって選択肢は無いの?」
「実家は……」
帰りたいけれど、帰ればこれみよがしに結婚がどうとか、恋人がどうとか、そんな話を持ちかけられるに違いない。散々な目にあって弱った上、両親の小言なんて聞きたくない。
言葉を詰まらせた私を見て、杏桜は「ああ、うん。察した」と、言って「納品終わったら、パ〜ッと飲みに行こう」と、嬉しい提案をしてくれた。問い詰めたりしない杏桜の優しさが嬉しい。但し、今後の生活の為にも浪費は最低限にせねばならないので「杏桜の奢りなら行くよ」と付け足せば「いいよ、ツケね」と杏桜は手堅い返事を返した。